小骨チェーサー

世の中を斜めから、でも前向きな目線で見るブログ

新型コロナウイルスで注目「濃厚接触」と『ノルウェーの森』の共通点

とうとう日本でも……と言うべきでしょうか。

新型コロナウイルスの感染患者が、神奈川県で確認されました。

このニュースで急浮上したトレンドワードが「濃厚接触

インパクトたっぷりの単語ですが、これは元々の意味より強いニュアンスで訳されたからです。

「翻訳のさじ加減」によってイメージが左右される……実はこれと同じなのが、名曲ノルウェーの森』です。

f:id:Kobone:20200116170209j:plain

 

感染患者は武漢の訪問者

2020年1月16日付、厚生労働省の報道発表。

 

www.mhlw.go.jp

 

新型コロナウイルスが原因とみられる肺炎が集団発生している中国 ・武漢

ここを訪問し、1月6日に帰国した神奈川県在住の30代男性が、 このウイルスに感染していたというのです。


「中国において、詳細不明の肺炎患者と濃厚接触の可能性がある」

そう厚労省が広報したことで注目された言葉が

 

濃厚接触

 

ツイッターは色めき立っていましたね。


「濃厚接触というから卑猥なことを想像したら、 そうじゃなかった」


自分でボケておいて自分でツッコむ、 ツイ民お得意の投稿パターンがいくつも見られました。

それにしても……

 

医学用語「濃厚接触」の"出元"

確かに「濃厚接触」と聞くと、 濃密な触れ合いのイメージですよね。

もろにあの方面の行為を意味しないにしても、

「海外のことだし、ハグとかキス程度はあったんじゃないか」

なんて思ってしまいます。


「濃厚接触者」とはどんな人を指すのか、 国立感染症研究所のホームページに書いてありました。

 

www.niid.go.jp


濃厚接触者の定義 
・医療従事者や家族、または同様な状況で、症例の世話をした者。  
・症例に症状があった時期に同じ場所に滞在(同居、訪問等) した者。  

 

つまり、患者のごく近くにいた(だいたい「2m以内」が基準のようです) というだけでもう濃厚接触になります。感染者に直接触ったりしていなくても、 です。


この言葉、元はもちろん日本語ではなく、英語の

 

Close Contact

 

それを、お医者さんなのか厚労省のお役人なのか知りませんが、 誰かが翻訳したものです。


考えてみれば"close"だって"contact"だって、 中学生でも知っているような単語。なんで「濃厚接触」 と訳したんでしょうね。

 

近接接触

 

とかでも良かったのに。

「接」が並んでしまうけど、「民主主義」だってそうですもんね。

 

そしていちばん問題だなと思うのは、この「大げさ翻訳」によって、誤解が生じる恐れがあること。たとえば

 

感染者と同じ部屋で、しばらく作業した

 

レベルだったら、「自分は濃厚接触した」とは感じない人も多いのではないでしょうか

"濃厚"という言葉のニュアンスが、逆の意味での「安心材料」となり、その結果、自分が感染してしまった可能性を自覚できない……そんなケースも考えられると思うんです。

 

翻訳の仕方で、意味がずれてしまった言葉たち

 以下、雑学です。


「濃厚接触」と同じように、外国語の用語を訳す際、間違えたり、ニュアンスがずれてしまったりといった言葉を探してみました。

 

帝王切開

自然分娩では出産が難しそうなときの開腹手術。

元のドイツ語"Kaiserschnitt"を二分し、「Kaiser=皇帝( 帝王)」「Schnitt=切開」と訳したため、全体が「 帝王切開」になってしまったとさ……

 

というのが一般的ですが、実は諸説あるようです。

ただいずれにせよ、「帝王」 とは直接関係のない手術であることは確かですね。

 

デッドヒート

「負けたほうが命を落とすような、生きるか死ぬかの大勝負」 といったニュアンスが漂う言葉。

でも英語の"dead heat"「引き分け」「同着」という意味。

翻訳ではありませんが、 ニュアンスがずれた例として挙げてみました。

 

ノルウェーの森』

ジョージ・ハリスンが初めてシタール(インドの弦楽器) を披露したことで知られるビートルズの名曲(レノン・マッカートニー作)。なお、 この曲にちなむ村上春樹さんの小説は『ノルウェの森』です。


原曲の題名は"Norwegian Wood"

ぼくはビートルズを聴き始めた高校時代から不思議でした。

「 woodと単数形だと『木』、woodsと複数形なら『森』」 と習ったからです。

 

もろもろの研究などによろと、原曲ではやはりノルウェー産木材」の意味で使われているみたい。

でも当時東芝音楽工業で、ビートルズの担当だった高嶋弘之ディレクター高島忠夫さんの弟さんで、高嶋政宏さん政伸さん兄弟の叔父さんで、高嶋ちさ子さんのお父さんですって。へえ!)が、曲の雰囲気から『ノルウェーの森』というタイトルを付けたといいます。

 

ビートルズにはほかにも、

  • "I Wann Hold Your Hamd" →『抱きしめたい』
  • "Ticket to Ride" →『涙の乗車券』

などの例がありますからね。作品のイメージに合ったタイトル付けも、腕の見せどころだったのでしょう。

 

「濃厚接触」から『ノルウェーの森』まで、元の言葉のニュアンスをずらした翻訳にぼくらはどれだけ影響されるか、という話でした。

 

正しく恐れましょう

話は戻って、コロナウイルスです。

こういうときはきちんと"敵"の特徴を知り

「正しく恐れる」ことが、何よりも大切。

 

厚労省によるとこのウイルス、一部のもの以外は、感染しても重い症状にはならないといいます。

インフルエンザ流行の時季でもありますし、「手洗い」「うがい」「マスク」といったごく当たり前の予防法で、ウイルスを防ぎましょう。

 

次回の『小骨チェーサー』も、ぜひ読みにいらしてください。