「森友問題」とあまりにもそっくり!63年前の古典『点と線』
数日前、新聞の小さな記事に目が留まりました。
「『点と線』舞台のレストラン 破産手続き」
東京・有楽町にある、『レバンテ』という老舗レストラン。
名店も時代の流れには抗えず苦戦していたところに、コロナショックが追い討ちをかけ、閉店に追い込まれたといいます。
こんなニュースが続かないよう、祈るしかありません。
そして、今回採り上げたいのは、店ではなく作品のほうです。
※以下、多少のネタバレがあります
日本ミステリー史の金字塔
『点と線』をご存知ですか?
松本清張の出世作で、社会派推理小説の草分けと言われるミステリー。
ビートたけしさん・高橋克典さん・柳葉敏郎さんのトリオでドラマにもなりました。
福岡の海岸で若い男女の遺体が発見される。男性は中央省庁の官僚、女性は割烹料亭の女中(多少"水商売風"といったニュアンスが漂っています)。当初は単なる心中と見られたが、調べていくうちに事件性が。だが、疑わしい男には鉄壁のアリバイがあり……
改めて読み返してみましたが、舞台はぼくなんかの親世代がまだティーンエイジャーのころの日本ですからね。いろいろな道具立てが今とは全然違う。
桜田門の警視庁から捜査へは都電で。新幹線はまだ走っていないし、北海道へ渡るときは連絡船。事件発生は1月ですから、まるっきり『♪津軽海峡冬景色』の世界です。
定期航空便は既にあったけれどあまり一般的ではなかったらしく、アリバイ崩しに躍起となる刑事たちも、最初は存在を忘れていたくらい。
中心人物の男は、女中2人(死んだ女性とは別)を連れ出し食事をご馳走するんですが(このとき待ち合わせた店が『レバンテ』)、いくら常連でも、そういう行為って現代ではちょっと考えにくい気がします。「上級国民」なら、今でもするのかな?
アパートの電話は呼び出しで、ビールを冷やすのは井戸水。男女の2人連れは「アベック」と呼ばれ、「愛人」ではなく「2号さん」。
「時代を感じさせる」というよりは、もはや「古典文学」に近い。
といった具合に、何もかもが今とは違う昭和30年代初めの日本ですが、1つだけ、現代とのいや~な共通点がありました。
「森友学園問題」とそっくり
作品中で命を落とす官僚・佐山憲一は、××省の課長補佐。この××省は汚職問題に大揺れで、既に逮捕者も出ています。佐山課長補佐にも捜査の手が伸びる寸前。その「死」によって得をしたのは誰かと言えば……
似たような話を、最近聞いたことはありませんか?
そう。
森友学園問題にからんで自ら命を絶った財務省の職員、赤木俊夫さんのケースとそっくりなんです。
森友問題にかかわる公文書の改ざんをさせられたことが原因で、赤木さんが自殺したのは2018年3月のこと。
それから2年経った先月、赤木さんの残した「手記」が公表されました。
「すべて、佐川(宣寿元)理財局長の指示です」
「抵抗したとはいえ関わった者としての責任をどう取るか、ずっと考えてきました」
「最後は下部がしっぽを切られる。なんて世の中だ」
「家族(もっとも大切な家内)を泣かせ、彼女の人生を破壊させたのは、本省理財局です」
そんな文言が綴られているといいます。
『点と線』の"被害者"、佐山課長補佐と
現実のほうの"当事者"、佐川理財局長。
なんだか因縁めいたものを感じてしまいました。
再調査させよう! 裁判を注視しよう!
命と引き換えの訴えが記された「手記」が出てこようと、麻生財務大臣など関係者は木で鼻をくくったような対応。
そこで赤木さんの奥様たちは、ネットのキャンペーンサイト「Change.org」を利用して、再調査を求める署名を集めています。
メールが届いた時点(キャンペーン開始3日後)での賛同者は約18万7500人でしたが、4月3日20時現在、28万1000人を上回っています。「Change.org」史上、最速最多の数だそうです。
賛同される方は、ぜひクリックを。ぼくも署名しました。
もう1つ、しっかりと見守りたいのが裁判の行方です。
赤木さんの奥様は国と佐川氏を相手取り、約1億2000万円の損害賠償を求める訴えを起こしています。
この裁判の過程で何が明らかになるのか、注目です。
ちなみに民事裁判だと、マスコミの採り上げ方はいくらかトーンダウンします。
「忖度だ!」と騒ぐ人もいますが、ニュースメディア出身者のぼくから言わせてもらうと、これはそういうことではなく、「民事」という特性によるもの。
判決によって、「被告は犯罪者である」と決定づけられる刑事裁判と違い、民事ではいくら被告側に問題があろうと、法的には悪事を働いたことにはならない。
だから"筆致"が弱まらざるを得ないんですね。
それから裁判が始まっても、コロナが今の調子のままだったら、やはり扱いはたぶん小さくなります。
だからみんなで、ちゃんと注視しておかなければいけません。
逃げ得は許すな!
『点と線』の世界では、佐山課長補佐が死亡したおかげで、彼の上司や同僚が出世を果たしています。
一方の赤木俊夫さん。
普段から「私の雇用主は日本国民です」と話していたそうです。
そういった実直な部下を踏み台に、のうのうと生き延びたヤツら。
小説なら見逃せても、現実の世界では
絶対に許すわけにはいきませんよね。
⇩こちらも、松本清張作品と現実との比較。
最後までお付き合いをありがとうございました。
次回の『小骨チェーサー』も、ぜひ読みにいらしてください。