なぜ「執行猶予」なしかを大胆予想…長男殺害の元次官に「懲役6年」判決
「執行猶予を付けてあげてほしかった」
ネットには、懲役6年の判決を言い渡された元農水次官に対する同情の声が、たくさん上がっています。
殺人の罪に問われた被告に、「執行猶予付きの判決」が出ることはないのでしょうか。
実は、そうでもないんです。
事件の概要
今回の事件は6月、東京都練馬区の住宅で起きました。
元農水事務次官の熊沢英昭被告(76)が、いわゆる「引きこもり」状態の上、家庭内で暴力をふるう長男の英一郎さん(44)を殺害したというもの。
弁護側は、犯行そのものについては争っていません。
なので争点=ポイントは「量刑」。
つまり、被告はどんな刑に処せられるか、でした。
被告に"有利"な点
- 英一郎さんがコミケに作品を出したとき売り子をするなど、献身的にサポート
- 事件の1週間前に英一郎さんから暴行され、「体が震えるほどの恐怖」を感じた
- 近所の小学校を「うるさい」と話し、そちらに危害を加える恐れがあった
- 英一郎さんのため、妻がうつ病になり、娘が自殺している
- 犯行後は自首している
被告に”不利”な点
- 同居から事件まで1週間しか経っていない
- 家庭内暴力について、行政や警察に相談をしていない
- 英一郎さんの遺体には36ヵ所もの刺し傷があり、強い殺意がうかがえる
- パソコンに「殺人罪 執行猶予」と検索した形跡が残っている
判決が言い渡された法廷では
「懲役8年」の求刑に対し、判決は「懲役6年」。
ちなみに刑法第199条には
「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する」
とあります。「懲役6年」が、殺人の判決としては異例に軽いということがわかります。
今回の裁判では、被告に検察官が、気遣うような声をかけたことも話題となりました。
弁護側はもちろん、検察側も重い刑を課すつもりはなかったのですね。
だとすればなおさら、執行猶予が付かなかったことが不思議な感じもしてきます。
殺人罪で執行猶予が付くケースは?
調べたところ、まったくないわけではありません。たとえば
- 2014年 妻が、介護をしていた夫を殴るなどして殺害
夫は、30年以上前に不倫したことを妻に打ち明けていた - 2017年 末期がんの妻を、看病していた夫が殺害
夫が妻に心中を持ち掛けた
偶然かもしれませんが、ともに「介護」がからんでいます。
今回の判決が"意味"するもの
判決で裁判長は
「子を殺害した同じような事件の中では、執行猶予を付けるべきではない」
と述べています。
執行猶予付きの判決を下すことも、一応検討したということですよね(裁判員の人たちも含めて)。
個人的には、執行猶予なしの判決もやむを得なかったと思っています。
仮にここで「温情」をかけてしまったら、
「暴力をふるう引きこもりは殺害しても良い」
という風潮になりかねない。
それは、法治国家としてどうなのか、ということになる。
悲しくて、気の毒で、やりきれない事件ではあるけれども。