正しくはリンカーン? リンカン? “老舗教科書出版社”の裁定は?
「ねえ、これってリンカーンのことだよね?」
眺めていた冊子を示しながら、妻が聞きます。そこには
リンカン大統領
の7文字が……。
昭和世代の皆さん、ご存知でしたか?
リンカーンはいまや、リンカンへと変貌を遂げつつあることを。
若い世代の皆さん、ご存知でしたか?
リンカンはその昔、リンカーンと日本では呼ばれていたことを。
念のために言っておきますと、ここで話題に上げているのは
『奴隷解放宣言』
とか、
「人民の、人民による、人民のための政治」
というゲティスバーグ演説であまりにも有名な、第16代のアメリカ合衆国大統領。
この人を日本で『リンカーン』と呼ぶ場合、“カーン”の部分を高く発音しますが、原音はLin-colnと、“Lin”にアクセントがあります。
外国語の固有名詞を、日本語でその通りに発音しようというのは、土台無理な話。多少の表記の揺れは仕方ありません(たとえば今のアメリカ国務長官を、多くのメディアは「ポンペオ」と表記しますが、NHKは「ポンペイオ」と呼びますよね)。
でも、あれだけメジャーで、長年呼び習わされてきた『リンカーン』という名前が、変わってしまうものなんでしょうか。
アメリカ車の代表格であるあれだって、「リンカーン・コンチネンタル」なのに。
「自分は『リンカーン』って習った」と、中学生の娘。
よし、ちょっと調べてみるか。
- 日本語版の『ウィキペディア』の見出しは『リンカーン』。ただし説明に「姓はリンカンと表記されることもある」とあります。
- ネット上の『質問箱』みたいなサイトでも、ちょこちょこ見かけますね。中学生くらいからの「どちらが正しいのですか?」という質問。回答はだいたいが「学校で使っている教科書に準拠しなさい」。娘よ、テストで『リンカン』と書いたら✖になるぞ。
- アメリカ・ネブラスカ州の州都が同じ発音なんですが、グーグルマップの表記は『リンカーン』
などと調べるうちにたどり着いたのが、社会科の教科書や地図帳を手掛ける出版社、『帝国書院』。
やはり問い合わせが多いんですかね、同社のホームページに、こんな一文がありました。
文部科学省の国語審議会が発表した「外来語の表記」においては“Lincoln”は「リンカーン」と表記することが定められています。これを踏まえて多くは「リンカーン」と書き表します。ただし、この「外来語の表記」は、その他の書き方を否定するものではなく、必ずこれに従うべきものではない、との細則があります。
弊社では、グローバル化が急速に進展している現状を踏まえ、できる限り現地の読み方に近い表現で外来語を書き表しています。“Lincoln”は発音記号では“”と表されることから,弊社では「リンカン」を日本語読みとして使用しています。
『帝国書院』は1917年創立。教科書出版社の中でも“老舗”と言える存在です。
2015年の産経ニュースによれば
2016年度は、全国の中学校の歴史教科書のうち、17.8%が帝国書院刊だったそうです。
中学生の少なくとも5人に1人ぐらいは、「リンカン」と習っているわけです。
また、2017年の『NIKKEI STYLE』によると
高校の歴史教科書では「リンカン」派が大勢を占めたようです。
リンカーンと呼ぶかリンカンと呼ぶかで、年齢がバレる
……なんて日も近い?